ほかの国と比べて生産性・賃金の上昇についてどのような変化が見られるのか。日本、EU、米国の労働生産性について1995年を100として見ると、アメリカは上昇率が高く、日本はほぼEUと同程度だが、スピードダウンしてきた(図表1)。さらに、生産性の上昇以上に一人当たりの雇用者報酬はEU、アメリカとも上昇が見られるが、日本は費用を抑制する形が見え、これによって、競争力を強化し、雇用を守りながらデフレ経済を乗り越えようとしてきた。

図表1

もし生産性三原則が踏襲されているならば、生産性の上昇に伴った雇用者報酬の上昇が期待されるが、必ずしもこうした動きになっていなかった。ただし、リーマン・ショックを経て、人手不足が進行するなか、ようやく最近、若干上昇するようになってきた。

似たようなことが雇用者報酬と経常利益の間でも見られる。経常利益は1995年から長期的に見れば右肩上がりだった。それに比べて雇用者報酬は、必ずしも連動していない(図表2)。このところ、経常利益の上昇に伴って、若干賃金もようやく上昇する変化が見られる。デフレ経済のなかで、人件費を抑制することで、競争力を維持し、これによって雇用の維持・保障を実現しようという傾向を生み、実行されてきたといえる。

図表2

正規労働者の削減と非正規雇用の拡大

しかし、このところ景気の回復と人手不足の状況のなかで、対応を転換していかなければならないことになってきた。個々の労働者で見ると、昨年より賃金が下がっている人はそれほどおらず、実際のデータを見ても個々の社員の賃金は抑制こそされてきたが、賃金自体の低下が起こっているわけではない。それにもかかわらず経済全体で見ると平均賃金が下がっているのは、賃金の低い非正規労働者が4割を占めるに至った絶対的増加が影響している(図表3)。時間当たり賃金にしても同じことが起こっている。

図表3

労働時間についても同じことが起こっていた。年間総実労働時間の推移をみると1990年代の初頭には低下した。日本ではものを消費することに関心が薄く、アメリカとの貿易のなかで、余剰なものをアメリカに輸出しており、これが貿易摩擦を引き起こしていると言われた。こうした国際世論に対して、政府が前川レポートという形で週休二日を国際公約し、これによって、労働時間の短縮に踏み出した。この公約のなかで目標としたのが、年間総労働時間を1,800時間以下にすることだった。グラフ(図表4)を見ると現在、1,800時間をはるかに下回っている。公約はある意味実現したにもかかわらず、なぜ長時間労働の問題が議論されるようになったのか。

図表4

グラフ(図表5)を見ると、正社員の年間総労働時間は、あまり変化がなく、横ばいで推移している一方、パート労働者の労働時間はむしろ右肩下がりになっている。平均の労働時間が減ったように見えるのは、パートの比率が大きく伸びていることにある。これは加重平均による一つの数字のトリックといえる。

図表5

正規労働者のピークは1997年の3,800万人から現在は3,300万人へ500万人も減少してきた。逆にこの間、非正規労働者は、600万人から2,000万人へ増加してきた。その一方、人件費の抑制は費用の削減になるが、長期的に見ると生産性に影響を及ぼしてきた。

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