賃金水準は回復していない

現金給与総額は2014年から連続して緩やかに上昇しています。現金給与総額とは、所定内給与、所定外給与、賞与などで集計される収入で、日本の賃金を計る指標となるものです。
ただし、物価を考慮した実質ベースでは低迷しています。2017年は前年比で0.2%減少しました(図1)。

これは、賃金の上昇率が物価の上昇率を下回り、実際の購買力が低下したことを意味します。実質ベースの賃金は過去の水準と比べても低いままです。

図1:現金給与総額の推移(前年比増減率)

より長い期間で実質賃金の変化を見ると、2017年の実質賃金は1988年の水準を下回っています(図2)

図2:実質ベースの現金給与総額の推移(2015年を100として指数化)

日本企業は非正規雇用を拡大することで賃金を抑えてきた

実質賃金はなぜ下がり続けているのでしょう。その要因は、非正規雇用者が増加していることです。

総務省の労働力調査によると、雇用者数(役員除く)全体における非正規雇用者数の比率は、2012年の35.2%から2017年は37.3%に拡大しています。

 約30年前のデータをさかのぼると、さらに大きな変化があったことがわかります。

1984年2月には非正規雇用の比率は15.3%でした。約30年で、雇用構造が正規雇用から非正規雇用に大きく変化したことがわかります。

実質賃金が下がり続けている理由は、それだけではありません。正規雇用の実質賃金も停滞しています。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査を基に実質ベースの給与額を算定すると、年間賞与その他特別給与額には回復の兆しが見られるものの、決まって支給する給与額(所定外労働給与を含む)は低迷が続いています(図3)。

図3:期間の定めがない正社員・正職員の実質給与額推移(2015年を100として指数化)

若者を中心に消費が抑制されている

こうした厳しい所得環境を受け、日本の家計は支出を抑制し、節約に努めてきました。勤労者世帯の平均消費性向【注】は、ここ10年間を見ると2013年がピークで、その後、低下傾向にあることが総務省の家計調査統計よりわかります。

【注】消費性向
可処分所得(使うことができる所得)のうち、何%が消費支出に回されたかで、計測します。世帯の消費意欲を測る指標です。所得環境が改善すると、消費性向が上昇し、将来への不安が高まると、消費性向が低下する傾向があります。

消費性向の変化を、年代別に見てみましょう。世帯主の年齢別で、50~59歳の世帯の消費性向が堅調に推移しているのに対し、29歳までの世帯における低下が目立ちます。若者を中心に消費を抑制する姿勢が強まっていることがわかります(図4)。

図4:勤労世帯の平均消費性向の推移(2008~2017年)

家計調査統計で見ると、世帯主が29歳までの若者世帯は被服及び履物などへの支出を大きく減らしています。

2017年における1カ月あたりの被服、および履物支出額は8,453円となり、2008年の1万3,263円と比べて、4,810円も減少しています。

一方、食品への支出は、それほど大きくは減っていません

2017年で1カ月当たり4万2,000円で、2008年の4万4,623円から2,623円しか減っていません。生きるために必要な食品の支出を大きく削ることは難しいようです。

ただし、食べ物については自炊をすることで支出を抑制しているとは言えません。

2017年の消費支出に占める外食の比率は11.5%で、2008年の10.7%よりも上昇しています。また、調理食品への比率も、2.7%から3.9%に上昇しています。

変動幅は異なるものの、外食および調理食品の比率の上昇はどの年代にも共通しており、日本の消費者は手軽さや時間の効率化に価値を見出す傾向があるとみられます。

さらに消費を取捨選択する時代へ

ベースアップによって現金給与が上昇しない限り、私たちが肌感覚から「所得が上昇した」と思うことは困難でしょう。とすれば、日本の家計は今後も節約意識を高く持ち、価値があると判断するもの以外への出費をしっかりと抑制していくでしょう。長期的に考えても、高齢化の進展に伴い収入の減少や医療費の負担に直面する世帯が増える可能性が高く、消費環境は楽観視できない状況です。

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