子どもの家庭内暴君化なぜ

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川崎市登戸での引きこもり傾向にあった男(51)による児童等への無差別殺傷事件や、東京都練馬区での引きこもりの長男(44)の殺害事件など、今年に入って「8050問題」の当事者世代に関係する事件が相次いでいます。

 中でも6月に起きた元農林水産省事務次官が長男を刺殺した事件は、家庭内暴力に悩まされていたエリート官僚が「他人に危害を加えないために」という理由でわが子を殺害したという8050問題を象徴する事件として、大きな話題となりました。

 長年、ひきこもり問題に取り組んできた筑波大学教授で精神科医の斎藤環(さいとう・たまき)氏によれば、現在、国内で引きこもり状態にある人の数は全人口の3~5%、概ね200万人にも達するということです。

 氏によれば、ひきこもりの概ね10%弱のケースには慢性的な暴力が伴い、50%程度に一過性の暴力が伴うということです。

 特に家庭内暴力と引きこもりは親和性が高く、自らへの惨めな思いが親や家族に向かい、「育て方が悪かった」との思いから恨みつらみから家庭内暴力に走りやすいとされています。

 引きこもりの期間は平均すると13年間程度となり、このまま増え続ければ人数は1000万人(人口のおよそ1割)を超えるのも時間の問題だということです。

 さらに、ひきこもりの人は(平均寿命の短いホームレスと異なり)家族がサポートするため生活の心配がないことからそのまま高齢化するケースが多いとされています。このため、今後は社会の高齢化とともに増加していくことが予想されているところです。

 こうして8050問題に揺れる現代社会に関し、9月18日の経済情報サイト「東洋経済オンライン」では、作家で精神科医の片田珠美氏による「いい子があっけなくひきこもり化する原因」と題する興味深い論考を掲載しています。

 片田氏はこの論考において、家庭内暴力のほとんどのケースで「親への怒り」が一因になっていることは間違いないと説明しています。

 何が子どもの怒りをかき立てるのか?子どもへの暴力やネグレクトなどもあるのだが、「いい学校」「いい会社」に入ることこそ幸福につながるという自らの価値観にとらわれ、勉強を最優先させる親による「勝ち組教育」がかなり大きな比重を占めているという印象を氏は抱いているということです。

 もとより、どんな親でも「子どもを勉強のできる子にしたい」「子どもをいい学校、いい会社に入れたい」などと願うが、そこにあるのは子どもの幸福を願う気持ちばかりではない。「子どもを『勝ち組』にして自慢したい」「子どもが『負け組』になったら恥ずかしい」という気持ちも往々にして潜んでいても、ほとんどの親はそれを自覚していないというのが片田氏の認識です。

 こういう不純な気持ちも入り交じっているので、「勝ち組教育」にこだわる親は子どものありのままの姿をなかなか受け入れられない。中には、できの悪い子どもは自分の子とは思いたくない親もいると氏は言います。

 そして、そうした親の気持ちは口に出さなくても(以心伝心で)子どもに伝わり、「勝ち組になれなければだめなんだ」と思い込むようになるということです。

 さて、それで一生懸命勉強してうまくいっている間はいいのでしょうが、多くの場合ずっと「勝ち組」ではいられない。いつか、どこかで躓く時がやって来る。そうした際には、親の「勝ち組教育」によって洗脳された人ほどなかなか立ち上がれないと片田氏は言います。

 そうした意味では、子どもを「勝ち組」への狭い一本道に追い込んできた親にとって、立ち直れなくなった子どもが家庭という密室で暴君と化し、暴力を振るい親を奴隷のように扱うようになってもそれを「報い」と受け止めるべきかもしれない。

 自分が正しいと信じてきた(そうした)価値観に疑問符を打たない限り、子どもの暴君化を止めることはできないというのが氏の指摘するところです。

 因みに、片田氏はこの論考で、(現代の日本おいて)子どもが家庭内で暴君化する典型的な例を挙げています。

 年齢は30代から40代が中心で、ひきこもりや無就労の状態が長く続いている。暴言や束縛で親を苦しめる一方で精神科への通院歴があることも多く、親や家族は、本人をどのように導いたらいいのかわからないまま手をこまねいている(状況にある)というものです。

 多くの場合、こうした人たちは(親に)過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、彼らは強い孤独を感じながら生きてきたと氏は説明しています。

 そして、「親からの攻撃や抑圧、束縛など」への復讐として、強かった親たちが年老いて衰えを見せる頃、子どもが牙をむくということです。

 引きこもりや家庭内暴力による子供たちの(突然の)反逆に戸惑い、「世間体」へのプレシャーの中で社会からの孤立を深めていくのでしょう。

 こうした状況自体は(片田氏の言うように)親の「自業自得」と言えなくもありませんが、それで済ませているだけでは誰も幸せになれないのも事実でしょう。

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